なぜ知財権を取得すべきなのか
他社との差別化を目指したビジネスを始めるにあたって、またビジネスを改良しながら継続するにあたって、市場に投入する製品やビジネスモデルを知的財産権 (知財権) で保護する必要性についてゲーム理論を用いて説明してみます。
知財権は排他的な権利であり、知財権の所有者のみが知財権で保護された製品を生産および販売することができます。知財権の所有者からライセンスを受けていない企業は、その製品を生産・販売することはできません。
独占排他権の本質を理解するという観点から、以下の単純化した例で考えてみます。
条件:
- 製品Xの市場においてプレイヤーAとプレイヤーBの2社が存在する
- 市場規模は10億円である
- AとBは市場シェアを均等に分け合っている
- Aは特許αを、Bは特許βを保有している
- αとβはどちらも有効であり、製品Xに関しては設計回避が不可能である
- 差止請求を行うためには1億円がかかる(例:弁護士費用、裁判費用など)
この条件のもと、仮にAが特許αの排他権の行使を検討した場合、Aから開始するゲームの木は以下のようになります。
ゲームは、プレイヤーAが製品Xに対して差止請求を求めてプレイヤーBに対して侵害訴訟を提起することから始まります。Bの対応としては、Aに対して差止請求を求める反訴を提起するか、訴訟を受け入れるか、の大きく2つの選択肢があります。Bが反訴により争う場合、AとBの双方に対して差止命令が発行されます。なぜなら、両者が互いの特許を侵害しているからです。その結果、AもBも製品Xからの利益を失うことになります。あるいは、両者は差止命令が最終的に発行される前に、訴訟を取り下げることで合意することもできます。
ゲームツリーをバックワードインダクション(すべてのシナリオにおける結末(最終利得)から逆算し、各分岐点で利得の高い方の選択肢を選んでいくことで、すべての局面(およびスタート時点)における最適な行動を決定すること)で解くと、AとBの最適な選択肢は以下のようになります。
このように、プレイヤーにとって最良の選択は「何もしない」ということになります。しかし、もしBが製品Xにとって必須の特許を持っていなかった場合はどうなるでしょうか?必須特許がなく反訴として差止請求を提起することができないため、ゲームの木は次のように変わります。
バックワードインダクションによると、以下のようになります。
すなわち、Aは差止請求を提起した方が利得が大きい一方で、Bには反訴の選択肢がありません。従って、Aにとっての最良の選択はBに対して差止請求を提起し、Bを製品Xの市場から排除することとなります。
上記のゲームから理解できるように、製品Xにとって必須の知財権を持たない企業は、市場から退場を余儀なくされることになります。
したがって、プレイヤーが市場でビジネスを続けるためには、その市場にとって必須の知財権を保有することが重要となります。
もちろん、特許αおよびβが100%有効であるという前提や、設計回避やライセンス取得の可能性がないという前提は現実的ではありません。製品X以外の市場も含む全体的なビジネスを考慮する必要があり、知財権の行使が他の市場に与える影響も現実的な実務では考慮しなければなりません。
しかし、多くの要素を一気に考慮すると分析が複雑になるのも事実です。したがって、知財権の核心である排他的を理解するために、まずは上記のような単純化した理論を基本的なものとして理解しておくことが重要です。