「課題解決アプローチ」の概要
欧州特許庁(EPO)において「進歩性(Inventive step)」の判断として採用されている「課題解決アプローチ(Problem-solution approach)」について基本を押さえておきましょう。ソースは EPC Guidelines G-VII, 5 です。
課題解決アプローチの3つのステップ
[ステップ1] 最も近接する先行技術(Closest prior art: CPA)の特定
CPAは、基本的には「クレームされた発明と同じ目的や効果を志向しており、最も少ない構造的・機能的変更でクレームされた発明に到達できる先行技術」が選ばれます。
[ステップ2] 客観的技術課題(Objective technical problem)の設定
次に、特定したCPAとクレームされた発明とを対比し、どのような「技術的課題」を解決したのかを客観的に定義します。このステップはさらに次の3ステップに分かれます。
(2-1) 相違点の特定: CPAに開示されておらず、クレームされた発明が有している特徴(相違点 = distinguishing features)を明確にします。
(2-2) 技術的効果の認定: その「相違点」がもたらす技術的な効果(Technical effect)を特定します。
(2-3) 客観的技術課題の定式化: 上記の技術的効果に基づき「CPAから出発して、その効果を達成するためにはどうすればよいか?」という形で、客観的技術課題を設定します。
※ 技術的効果は必ずしも明細書に記載の効果である必要はありません。
※ 設定すべき課題は、出願人が明細書に書いた「主観的な」課題ではなく、CPAとの比較によって事後的に導き出される「客観的な」課題です。CPAが変わることによって相違点も変わり、相違点によりもたらされる効果も変わり得ます。
[ステップ3] 当業者にとっての自明性の判断(Obviousness)
最後に、設定された「客観的技術課題」を解決するために、CPAから出発した当業者が、クレームされた発明に到達したことが自明であったかどうかを評価します。
ここでは「Could-would approach(クッド・ウッド・アプローチ)」が用いられます。
Could(できたであろう): 当業者が他の先行技術を組み合わせることで、その構成に到達する可能性があったか。
Would(したであろう): 客観的技術課題を解決するという期待を持って、当業者が実際にその先行技術を組み合わせようとする動機付け(Motivation)や示唆(Prompt)があったか。
そして、Couldでは足りず(進歩性は否定されず)、Wouldに該当すれば進歩性が否定されることになります。
解説
- 進歩性に対する応答で中心となるのはステップ2と3です。ステップ1が妥当ではないと反論することは可能ですが、CPAを変更すれば容易にdistinguishing featuresに想到するのであれば、他の議論と比べて説得性が劣ります。
- 客観的課題の設定は「技術的効果」に基づくという点が重要です。米国出願での非自明性の議論では効果を主張しなくともよい場合が多いですが、欧州において進歩性議論をする場合、効果の提示は多くの場合不可欠となります。
- ステップ(2-3)の課題の設定は、広すぎる(曖昧過ぎる)と広範な分野の文献が対象になるとともにdistinguishing featuresが単なる代替手段のひとつとして扱われやすくなり、一方で狭すぎる(詳しすぎる)と、課題の中にdistinguishing featuresに想到するヒントや場合によっては解決手段(ポインター)を含んでしまうことになるため、適切に設定することがポイントとなります。