なぜ知財ポートフォリオを構築すべきか

以前の記事なぜ知財権を取得すべきなのかでは、プレーヤーが市場においてビジネスを継続するためには、市場の製品に不可欠な知財権を保持している必要があるという理論を、ゲーム理論を使って紹介しました。しかし、特許に関しては、ある1件の特許が100%有効であり、設計回避をすることが絶対に不可能であると仮定することは現実的ではありません。

特許係争の場面では、例外的なケースを除き、特許の有効性や侵害に関する議論が当事者間で存在することが普通です。欧州の腕のいい弁護士によれば、特許侵害訴訟で勝訴する確率は高く見積もって70%程度とのことでした。

これまで経験した訴訟でも、米国や日本を含む複数の管轄での弁護士による勝訴率の見積もりは、いずれのケースも50%から65%の間でした。

ここでは、特許訴訟での成功確率が50%だと仮定することにします。すなわち、特許権者が単一の特許を使用して侵害訴訟を起こした場合、差止を得る成功率を50%とします。

この仮定のもと、特許権者が複数の特許、例えば3つの特許を使って侵害訴訟を起こした場合、そのうちの一つでも差止めを得ることができる(無効とならずに侵害を獲得できる)確率は、次の図に示されるように87.5%に増加します。

3件の特許を順に主張した場合の差止獲得確率(各50%成功を仮定)

このように、必須特許を束で保持することができれば、差止獲得確率が上がり、特許による抑止力を高めることにつながります。言い換えると、市場でビジネスを安定して継続するためには、単一の必須特許を保持するだけで十分であるとは限りません。

従って、プレーヤーの出願戦略としては、ビジネスを展開する市場を中心に、必須特許の束の確保が目標ということになります。

そして、知財権は国ごとに独立しているため、このような状況をそれぞれの市場(国)で確立する必要があります。これが知財ポートフォリオの構築の基本的な考え方です。

なお、上記仮定は市場ごとに異なります。例えば、医薬品は製造に必要な物質の混合比が固定されているため回避設計が不可能なことが多く、そのような場合は特許の有効性のみが争われるため成功率は高くなり、1件の特許でも抑止力が効きやすい場合があります。

一方で、標準化委員会に標準必須と宣言された特許(SEP)の半数が無効または非必須であると言われています。これが事実であれば、特許ごとの成功率は50%より低く見積もり、より多くの束が必要ということになります。

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